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福岡高等裁判所 昭和46年(ツ)11号 判決

上告人 広井平治こと 徐博碩

右訴訟代理人弁護士 水崎幸蔵

同 石橋重太郎

被上告人 武津仁三郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由は別紙記載のとおりである。

上告理由第一点について。

上告人は要するに本件開拓地の売買が契約と同時に所有権を移転する趣旨の契約であったにも拘らず農林大臣の許可を受けていないので絶対無効である。右開拓地の売買契約にあっては特別の事情がない限り契約と同時に所有権を移転する趣旨でなされたものと解すべきであると主張し、これに副う判例として最高裁昭和三八年(オ)第四二八号、第四二九号昭和四〇年七月一三日第三小法廷判決を挙げるが、右判決の説示するところは、開拓地を贈与し即日所有権移転登記を経由し、その頃右土地の引渡をも了している場合は右贈与契約は特段の事情がない限り土地の所有権を契約成立と同時に移転する趣旨でなされたものと解するのが相当であるというのであり、右事案は、即日所有権移転登記を経由している点においてこれを経由しない本件とは前提たる事実関係を異にするものである。

そもそも土地所有権の移転につき許可を必要とする場合許可を受けていない売買契約の如きも絶対無効なのではなく所定の許可手続を履践しない限り所有権移転の効力が生じないにとどまるものと解すべく、本件売買の如く所有権移転につき農林大臣の許可等法定の条件にかかっているような場合には特段の事情のない限り当事者は右の法定条件が充たされたときに所有権を移転する意思をもって契約を締結したものと解するのが相当である。

従って右と趣旨を同じくする原審の判断には上告人主張の如き立証責任並びに農地法の解釈を誤った違法は存しない。よって論旨は採るを得ない。

上告理由第二点について。

なるほど開拓地と農地とは農地法上別個の取扱いを受けていることは所論のとおりであるが、開拓地の所有権移転について農林大臣の許可を必要とした趣旨も農地のそれについて知事の許可を必要とした趣旨もひとしく農業適格者に必要な農地を取得させその経営の維持安定をはかることを目的としたものであること云うまでもない。しかして開拓地の売買や贈与契約について法定期間内に農林大臣の規制があるのは格別、農林大臣の許可を得ないまま法定期間が満了すれば右満了と共に満了時の現状により、すなわち現状が山林、原野等農地以外の土地であれば無制限に、また農地であれば知事(現在は農業委員会)の許可により所有権移転の効果を生ずることは当然のことであり別にこれがため農地法の目的に反するものとは解せられない。

なお上告人挙示の最高裁昭和四一年(オ)第九二〇号昭和四三年一〇月二四日第一小法廷判決は「所論の贈与契約は本来農地法七三条に基づき農林大臣の許可を受くべきものであったがために法定期間内はその許可のあるまで効力を発生し得ないものであったのである。」とし、「国は右期間の経過する以前において農地法七二条に基づき本件土地の買収処分をしたのであるから以後農林大臣は原則として右贈与契約を許可することはあり得ずこのとき右契約は法定の条件を具備し得ざることが確定的となりために効力を生じないことが確定したものといわなければならない」と云うのであるから若し買収処分がないまま法定の八年を経過すれば農林大臣の許可という法定条件が不要となり右の贈与契約は有効に所有権移転の効果を発生するものというべきである。換言すれば右贈与契約は債権契約としては有効であり所有権移転の効力が発生するためには許可が必要であるに過ぎないと解すべきである。

従って本件売買契約につきなされた右と同旨の原審の判断には何ら上告人主張の如き農地法の解釈を誤った違法ないし理由不備の違法は存しない。よって論旨は採用できない。

以上、本件上告論旨はいずれも理由がないから、民事訴訟法第四〇一条により本件上告を棄却することとし、上告費用の負担につき同法第九五条本文、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 弥富春吉 裁判官 原政俊 境野剛)

〈以下省略〉

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